【SR】メッセージ―今は遠き夏―

幼い頃、母と出かける度に、自分もヘンゼル達みたく森の中に置いて来られたらどうしよう……と不安に思っていた。

母から辛くあたられていたわけではなかったが、それはヘンゼルとグレーテルも一緒だったはずだ。

目印は、パンくずでは物語のように食べられてしまってはいけないからと、何にすればいいのか真剣に悩んだものだ――。




「絵本になんて興味あるんだ」

意外だな、と繁人は言った。


「ううん、懐かしかっただけよ」


鼻腔を抜けるブレンドの香りで、注文の品が運ばれてきたことに気付き、百夏はすっとカップを引き寄せた。




「なあ、本当に俺のこと覚えてないのか?」


さきほどから、繁人が本題に入りたがっていたのは知っていた。

だが、自分ももう一度改めて考える余裕が欲しくて、黙り込んだまま口を結んでいた。

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