【SR】メッセージ―今は遠き夏―
母が亡くなってもう5年だ。
自分の身内はもう、一人もいないのだと思うと、これ以上ない悲しみに打ちひしがれた。
父のことを何も語らないまま、母は旅立った。
生まれてすぐに離婚したらしいが、顔も知らない父に対して、愛しい感情も特に生まれず、百夏もそれ以上尋ねることはしなかった。
父の存在がないことを、疑問に思う余裕がなかった、というのが本音かもしれない。
それほどまでに、母一人子一人の生活は、経済的にも精神的にもギリギリだった。
一人になった家で初めての夜を迎えた日、百夏はほんの少し、後悔の念に駆られた。
静まり返った家はあまりに寂しく、待っていても誰も帰ってくる人はいないのかと思うと、今まで以上に孤独を感じた。
やはり父親について、何か少しくらい聞いておけばよかったのだろうか――。
家の中に時々母の姿を描くことで、悲しい気分を幾分紛らわすことができた。
それよりも、現実は母を失った悲しみに、いつまでも涙を流している暇などなかった。