今宵、月の照らす街で
『紘子。聞こえてる?』


紘子の耳に、ノイズ混じりの声が飛び込む。


「千鶴さん?」


『多香子の倒れた原因は力の使いすぎ…転移術での気の使いすぎが影響だと思うの。多香子を休ませたいわ。パッと片付けてもらえる?』


言葉の合間に、微かな吐息が漏れていた。おそらく、千鶴も闘い続けているのだろう。


おそらく、姉の傍で、だ。


紘子は髪をなびかせながら身体を捻り、魔の攻撃を交わしては、攻める。


序盤の奇襲を仕掛けても、敵の数は減らない。にも関わらず、千鶴の高い要求。


それでも、応えなければならない。


「わかりました」


目まぐるしく変わる戦場を駆け、風を裂いて敵を祓い続ける。


「姉さんは千鶴さんに任せます。あと少しだけ待って下さい」


冷静に周りを見て、一歩前に進みすぎだと判断した紘子は、バック宙をして間合いを取る。


「成二!」


叫んだ弟の名。


戦場で数多の音が響く中、ピンポイントに声が届いた成二は顔を上げた。


タイミングが悪く、成二に攻撃が向かう。成二は咄嗟に身体を捻り、紘子と同じ様に身を翻した。


「姉さんを助けたいの!力を貸して!」


短い言葉だが、弟には全ての想いが伝わる。成二は意を決した表情を浮かべ、自らの大剣を全て召喚した。
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