今宵、月の照らす街で
猛々しく荒れる風は、魔を切り裂き、休まる事を知らず、尚荒れ狂う。


「さっすが。もぉ半分は削っちゃったみたいだね」


明奈が氷壁の頂点から、戦場を見下ろす。そんな明奈を横目に、残りの対策室メンバーがなだれ込んで行く。


「明奈さん」


対策室メンバーの一人が、明奈の隣で立ち止まる。包帯で右目を覆った姿は少し痛々しく、ふと右目を落とす明奈。


「右目、大丈夫?」


「ええ。ありがとうございます」


まだ幼さの残る顔に、明奈の胸が痛む。


「俺は明奈さんと話した事もないし、むしろ東京で生き残れたのも奇跡です。だからこそ、明奈さん達八龍の役に立ちたいです」


「…ん」


真っ直ぐな左目。


「嬉しいけど、キミが無事生き残ったらもっと嬉しいよ」


明奈の言葉に緊張が解けたのか、若い退魔師の強張りが取れた。


「ありがとうございます」


そう言って戦場に向かう背中を、じっと眼で追う。政都対策室に入って、人と接して来なかった日々を、少し後悔した。


名前もわからない少年が、明奈に言葉を掛け、命を賭す、非情な現実。


「さてさて。私も行きますか」


―――せぇじだけじゃないもんね。


明奈は未来を担うその背中を、今度は自らの脚で追い掛けた。
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