今宵、月の照らす街で
「こーこ姉!」


紘子の背後を取った鬼蜘蛛の姿に気付き、成二が走る。紘子は成二に向かって走り込み、成二が剣を水平に払うのと同時に、思い切り滑り込んだ。


姉弟の連携から繰り出された剣で、また一部のエリアが魔から解放される。しかし、それといった解決策となっていないのも事実。


『せぇじ』


師の声が、弟子の耳に届いた。


『どうして欲しい?』


明奈の言葉を聞いて、成二はすたった一本の大剣を残して瞳を閉じた。


「明奈さんの力で、千鶴さんの波動を増幅して下さい。それを俺にぶつけてもらえますか」


『…!』


成二の耳元の声が途切れた。


『…大丈夫なのね?』


「はい」


『…わかった』


無茶を言ったかな、と成二は少し後悔したが、今更プランを変えた所で、それに勝るものはないだろうと納得させた。


誰よりも、自分自身を。


「あれ、やるの?」


紘子が成二の背中に背中を合わせた。


「う〜ん…やるしかないかな、と」


「わかった。時間を稼ぐわ」


紘子は背中を離し、再び戦場へ向かう。


「姉さん!!」


成二は振り向き、姉の背中を追う。


「信じてる」


姉のその言葉が聞こえた途端、そう遠くない場所から、龍が空へと昇った。
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