今宵、月の照らす街で
「千鶴さん。納得行かねぇよ」


京介の冷えきった反論の視線が、千鶴の目を捉えたまま、離れない。


「じゃあ、多香子は誰が守るの?」


「…!」


千鶴はダイニングテーブルに肘を置き、その薄紅色の唇を隠すように腕を組んだ。


「京介。私は貴方が何を考えてるのか、何となく察しているつもり。敢えて口にはしないけど、貴方が持ったその力は、復讐ではなく護る為に使って欲しい」


「…」


周りの室員の声は2人の耳に届く事なく、視線だけの会話が続く。


「わかったよ…」


京介が再び席を外し、2階の多香子の下へと向かった。


階段を進む、少し重い足音が一定のリズムで刻まれる。その中、千鶴が結衣を見た。


「ここの事、結衣に一任するわね」


「了解」


千鶴は腰を上げ、周りを見渡した。


「じゃあ準備して。もう休んでいる時間はないわよ」
< 255 / 315 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop