今宵、月の照らす街で
結衣は、静かにペタンと座り込む。セラはそれを見て、静かに地面に視線を落とした。


「うん…」


「?」


セラの頷きに、結衣が首を傾げた。


「霞結衣。アナタの勝ちよ」


キョトンとする結衣だったが、しばらくすると柔らかな笑みを浮かべた。


「ありがと」


「ありがと…って…私を祓わないの?」


「………何で?」


「!!…何で…って!」


結衣の応えにセラが困惑する。


「だって私は敵でしょう?陰の力を持つ脅威よ!?」


セラが力無く身体を前屈みにし、結衣に叫ぶ。


「それでも、悪い奴だからって祓う理由にはならない」


結衣が凛とした眼で応える。


その眼に飲まれる様に魅入ったセラは、それ以上何も言うことは無く、ただ、結衣の心の広さに自らの完敗を悟った。


結衣がセラを見つめてると、結衣の背中にもう一人の背中が寄り添った。


「京介?」


「おぉ…ちょっと寄り掛かるぜ」


煙草をくわえ、大きく息を吐く。


「え?相手は??倒したの?」


結衣が振り向くと、京介の煙草を持つ手が、真っ直ぐ伸びる。その先には、消滅しかけるオメガの姿があった。


「さらばだ、鏨京介殿」


オメガが清々しい声で呼びかける。


「じゃあな、オメガの爺さん」


京介も、どこか優しさを感じる声で返す。直に触れる背中越しに、結衣は京介の言葉の裏に隠れた感情が、少し伝わってきた気がした。
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