今宵、月の照らす街で
“三日月を包み込みしは気高き空”―――月那主宮の中でも、当主である廉明の純度の高い空の気が、天玉院の間に拡がる。


その気を自らの身体に圧縮し、“銀”の波動を発現する。


その銀色に陰の気が流れ込み、鈍く黒い色が流れる。手には薙刀を召喚し、廉明は戦闘体制に入った。


「行くぞ、小龍沢ぁ!」


廉明が多香子に仕掛ける。多香子は冷静に腰を落とし、嵐紋菊一文字を中段に構えた。


カウンターに備える多香子に、廉明は突きを繰り出す。シンプルな一撃だったものの、それは巨大な一撃だった故、多香子は受け流す事から、回避してからのカウンターに瞬時にプランを変える。


突きの軌道から半歩右にずれ、右脚を軸に回転し、遠心力を加えながら反撃に転じる。


刀は水平に、音を斬りながら廉明に向かうが、それを読んでいた廉明は、多香子が回転の最中、視線を外したのを逃さず、交差する瞬間に左手で多香子の頭を捉える。


「甘い」


廉明は多香子の頭をわしづかみにし、多香子と同じく右足を軸に回転を加え、天玉院の間の入口に投げつける。


多香子は空中で身体を捻り、扉に着地する。


多香子が着地した瞬間、多香子の操る風が天玉院を優しく走った。
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