今宵、月の照らす街で
「いらっしゃい、せぇじ」


明奈の部屋に通される。


甘く、しかし、しつこくはない優しい香りが部屋を包んでいた。


家主はバスローブを纏ったまま、ダイニングキッチンで珈琲をいれている。


「いきなりどうしたんですか、明奈さん?」


成二の質問に優しく微笑んで、明奈は珈琲を口に含んだ。


「オシゴト」


悪戯めいた顔が“何か”を予感させる。


「先日の歌舞伎町の件。あれの追跡調査♪」


その地名に、成二は恥ずかしさと少々の希望が込み上げてくる。


「あら、あーゆートコ、好き?」


バーカウンターでくつろぐ明奈に顔をまじまじと見られる。


「ちがっ…!」


こーなると非常にめんどくさい。


「貴方もオスなのね」


―――オ…オス…ですか。


「シャワー浴びてくる。覗かないでね、オオカミさん♪」


また悪戯な笑みを浮かべ、明奈はマグカップを置いてリビングを後にする。


一応、男である成二を前にしての無防備さ。


信用されてんのか、男として見られてないのか、遊ばれてるのか…。


考えても疲れて来るし、考えない方が良さそうな気がして来た。
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