今宵、月の照らす街で
血の出ない傷跡。


よく見れば縫合された腕。


そして精気の無い表情。


死体を操る忌まわしき禁術、ネクロマンシーで操られた死体人形。


それが今の西蓮地隊長の正体だという事に間違いは無い。


そして…信じたくも無い。


だからこそ…これ以上傷つける事無く、時間をかけることもなく、一瞬で終わらせたい。


「それが今まで御世話になった貴方への恩返しです」


成二は覚悟を言葉にして、108の剣先を全て隊長に向ける。


同時に、頬を冷たいものが流れた。


「行きます」


その言葉が聞こえたのかはわからない。


理解したのかもわからなかったが、成二と同時に隊長はその脚でヒビ割れたコンクリを蹴り、宙を舞う。


身体を捻ると同時に剣を同心円状に纏い、防御の陣を敷きながら隊長の後頭部に踵落としを繰り出し、追い討ちで13本の剣を追撃させる。


地面に叩きつけられた隊長は関節を外した腕を鞭の様にして、剣の雨を弾く。そして手を祈るように合わせ、陰の波動をぶつける。


その重い一撃に、防御に敷いた剣が乱れ、一瞬無防備になる。


それを見逃さない隊長のしなる右腕が鳩尾に深くめり込むのがわかった。


一瞬意識がぶっ飛びそうなくらい、成二の目の前がチカチカした。
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