父さんと僕

10.天木勇

「小学生低学年の時だっただろうか。いつもなら一人で出て行くのに父さんと実の手をとって母さんは外に飛び出したんだ。意味もわからず、雨に濡れながらついていったものだよ」


 あのときは冬だったと思う。とても寒かった。部屋も暖房器具が一切なかったからとても寒かったけど、外は格段に寒かったなぁ。
 あまりに凍えてしまい、涙すら出たっけ。


「昔の家にはガレージなんてなくてね。だいたい1kmくらい離れたところだったかな?仕事で使うためのダンプカーがあったんだ」


 延々と1km手を引かれながらガレージに向かった。 
 母さんは何を言っているのかわからないし、実は泣き叫びながら母さんに引きずられているし、私は私で混乱していた。何のためにこんなことしてるんだろう、って。


「寒かったよ。とにかく寒かった」


 いろいろと寒かったね。愛も、懐も、何もかも寒かった。世間からの視線も寒かったなぁ。

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