涙の欠片
初めて知った。
人の体温がこんなに温かかったなんて初めて知った。
深くに眠っていた何かが突然現れたかのように不意に出た一雫。
リュウは力をこめていた腕を緩めて少し身体を離し、あたしの両肩に手を置いた。
“離される”
そう思った瞬間、あたしは咄嗟にリュウの背中に腕を回していた。
その行動でリュウの身体がピクッと反応した気がした。
「…もう少しだけ。お願い…」
そう言ったあたしにリュウは何も言わずに肩に置いていた手をあたしの後頭部と背中に回しもう一度抱き締めてくれた。
だれかの温もりがほしかった。
ほんの少しでも誰かの体温を奪いたかった。
あたしの冷えきった身体に温もりを入れたかった。
誰でもいいから…
誰でもいいから…
この時はそう思っていたはずなのに…。