【短】きみに溺れる
フロアから見えない場所で、壁に手をつき、呼吸を整える。
吐き気がこみ上げ、立っているのが辛かったけど
座りこむと立ち上がれないような気がして、必死に耐えた。
……今日はレンが休みだということを、さやかさんは知っているはずだ。
なのにわざわざこの店をおとずれる、その理由は何?
もしかして私に会いに来たの?
さやかさんは、私とレンの関係に気づいているの?
混乱はますます加速し、頭の血管がはちきれそうだった。
「黒崎さん、顔色悪いけど大丈夫?」
声をかけられて顔をあげると、バイトの女性がどこか迷惑そうな表情で、厨房からこちらを見ていた。
「あ……平気です。すみません」
「そう。じゃあこのドリンク、運んでくれる?」
カウンターに置かれたのは、生ビールが3つと、カシスオレンジが1つ、コーラが1つ。
さっき私が、さやかさんの席でオーダーをとったものだ。