【短】きみに溺れる
しっかりしなくちゃ。
青ざめた情けない顔で、あの人の前には行きたくない。
そんな女のプライドに、ギリギリのところで支えられ
ドリンクをトレーに載せて歩き出した。
「お待たせしました」
ドリンクを運び、なるべく目を合わさずに立ち去ろうとした私を
「あら?これ、頼んだものと違うんじゃない?」
さやかさんの声が引きとめた。
「私、カシスグレープ頼んだよね?」
さやかさんは目の前のカシスオレンジを指して、首をかしげている。
「すみませんっ……すぐに交換してきます」
「ううん、いいよ。オレンジも嫌いじゃないし」
「でも……」
「黒崎さん、変わってないね。そういうとこ」
え? という顔をした私に、さやかさんは目を細めた。
「生徒会のころも、一生懸命なんだけどミスが多かったもんね。
いつもレンがフォローしてたのを覚えてるわ。
彼、そういうタイプの子をほっとけないタチだし」
笑顔で見下されたことよりも
彼女の口から放たれる“レン”という言葉に、耳をふさぎたくなった。