【短】きみに溺れる
「早かったな、マーヤ」
嬉しそうに迎えてくれる彼に、躊躇する私。
「……待ってたの?」
「うん。メールの返事がなかったから。……あれ? もしかしてマーヤ、お酒飲んでる?」
アルコールの匂いに気づいたらしく、彼は眉をひそめた。
「お客さんが無理やり勧めてきて、断れなくて」
と嘘をつくと
「そっか。酔っ払いはタチが悪いからなぁ。 俺がそばにいたら守ってやれたのにな」
甘やかすようなその声に、胸が苦しくなった。
……私を縛りつける、優しい言葉。
けれどレンが本当に守りたい人は、私以外にいるでしょう?
そう言いたくなる。
でも、言えない。
部屋に入ると、レンは冷えた体を温めるように、私を抱きしめた。
感情の整理が追いつかないまま触れられることに抵抗を感じ、両手で彼の体を押し返した。
「マーヤ?」
いつもと違う様子の私に、表情を曇らせる。
「どうしたんだよ」
顔をのぞきこもうとする彼に、そっぽを向くように背を向けた。