【短】きみに溺れる
「ね?」と微笑みかけてくる彼女の瞳には、決して私には越えられない何かがある。
足もとから崩れ落ちそうになりながら、悟った。
――私は
この人には叶わない。
さやかさんの席を離れた私は、店長の了解も得ず、無断で早退した。
マンションに帰る気にはならず、コンビニで缶ビールを2本買って、公園のベンチで一気に飲み干した。
見上げると、星はなかった。
どこまでも暗い空が無限に広がっていた。
真冬の公園で2時間ほど座っていると、さすがに体が冷え切ったので、渋々立ち上がる。
ふらふらと歩きながら携帯を見ると、夕方にレンからメールが届いていた。
【今夜、真綾のバイトが終わってから会えない?】
さやかさんが友達と出かけたから、私にメールしてきたのだろうか。
返事する気にはなれなかった。
何も考えられない頭で、どうにか家までたどり着いたとき
私は思わず足を止めた。
部屋の前で、レンが待っていた。