another contract
紅さんはうっすらと目を開いて、私の頬に手を伸ばしてきた。
何も言えなくて、でも溢れる涙は止まらなくて‥‥。
「なぁ、お願い‥あんだ」
「な、に?」
「笑って、くれ」
この状況で‥‥、
紅さんがこんな状態で‥‥
「出来ない、出来ないよ‥ッ!!」
ポツポツと雨の様に涙は落ち、紅さんの顔を濡らす。
「‥泣く、なよ」
それも出来るわけがない。
そんな、無理な事言わないでよ。
この状況で、『泣くな』なんて‥‥。
「紅さん‥‥紅さんがこうなったのは、私のせい?」
「‥いや」
「私のせいなんだよね?」
「俺が、選んだ、事‥だから」
貴方はどうしてこんなに勝手なんだろう。
いつも、いつも、どうして一人で突き進むの?
私にも、選ばせてよ‥‥ッ!!
「‥お爺さんに会った」
「そ、か」
「‥‥全部聞いたよ。屋敷内の“吸血鬼”と“特別”な存在の事はちゃんと聞いてないけど」
「‥‥」
紅さんのしようとした事。
“契約”の事。
『“契約”する前に飲んだ血は全て無効になり、消えるんじゃ。“契約”して、3日以内にその“餌”の血を口にしなければ‥‥死ぬ』
『‥‥それは、いつなんですか?』
『明日の‥朝方じゃの』
紅さんは私の為に〝命〟を賭けてくれた。
なら、私は〝人生〟を賭けるよ‥。
「紅さん、私ね、“餌”として生きるのは、本当に嫌なの」
「‥‥知ってる」
だよね。
初めて出会った時、教会であんなに泣いているところ、見られちゃったし。
「でもね、紅さんは私の為に〝命〟を賭けてくれた」
「は、恥ずかしい、事‥言うな」
「うん。だから‥‥私もその分、大きなものを賭けないといけないと思った」
「‥‥」
「紅さん、貴方が人の血を好まない事は十分、分かってる」
「‥‥ああ」
大丈夫、ちゃんと覚悟したから。