another contract

「さて、桃。お前には“吸血鬼”と“特別”な存在の関係を教えなくてはな」

そうしてお爺さんは全ての事を教えてくれた。
それを一気に頭の中に入れてしまうのは難しかったけど、なんとか理解した。

「桃、お前は紅とずっと、これからを生きなくてはならない。それで、本当に良かったのか?」
「‥はい、私はいいです。でも‥‥」
「でも?」
「紅さんがどう思っているか分からなくて」

そう、どれだけ私が覚悟しても、どれだけ私が紅さんの事を好きでも



‥‥紅さんがどう思っているか分からない。



「桃、紅の部屋にこれを持って行ってあげてくれんかの?」

お爺さんは私に四角い木箱を持たせた。

「薬が入っておってな、これがもぉよぉ効くんじゃ。そろそろ紅は部屋に戻っておる頃じゃろうから、傷の手当てしてやってくれ」

そしてお前さんが紅にとってどういう存在なのか、自分の耳で確かめればよい。

お爺さんに後押しされて、私は部屋を出た。
半月の淡く優しい光が、窓から私を照らす。
ゆっくりとした足取りで紅さんの部屋にむかえば、共に隣の微かな自分の影も進んだ。
そっと襖を開けると、紅さんはこっちに背中を向けて胡座を掻いていた。

「あ、あの‥手当て、しよう?」

紅さんの表情が覗えないというだけで、ノシリと不安が私に被さった。
とりあえず、顔を見て話したくて隣まで行った。
途端に、腕を引っ張られて足元をすくわれた様な感覚に、私は紅さんの胸に埋もれた事が分かった。

「えっ、ちょ、紅さん‥ッ?」

さり気無くその胸から離れようとするけど、それは許されなかった。
初めてちゃんと正面から‥‥行き成り抱かれて、動揺するなというのは無理な事だし‥。
胸が、ドキドキ言ってる‥。
どうか紅さんに聞こえませんように‥。

「名前」
「‥名前?」
「呼べよ」
「紅さん‥?」

そう呼んだが、返事は無かった。
ただ苦しい位に抱きしめられて、目の前に鮮明な赤がじわりと染みた。
‥‥そう、赤が‥‥。

「‥って、わわっ!!」

慌てて私は紅さんの胸から剥がれ飛んだ。
理由は、紅さんの服に血が滲んでいる事に気が付いたから。

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