Bitter Love〜苦くて切ない恋〜
「昔じゃ、考えられないよ」

あたしは唇を噛んだ。

泣きそうだった。

だからこらえるように、唇を噛んだ。

中沢さんが一気に、グラスの中のお酒を飲んだ。

飲んだお酒は、甘そうなカクテルじゃない。

ちょっと強そうなお酒だ。

お酒全般飲めるあたしでも、これだけはちょっと飲めなさそうだ。

「じゃあ、もう帰るよ」

中沢さんが空っぽになったグラスの横にお金を置いた。

腕時計を見ると、まだ7時過ぎたばかり。

あたしがきてから、少ししか時間が経っていない。

中沢さんと目が合った。

ドキッと、あたしの胸が鳴る。

中沢さんの顔があたしの耳に近づいた。

「次会った時、2人で話そうか」

耳元でささやく中沢さん。

顔が、紅くなる。

中沢さんはニヤリと笑うと、去って行った。

あたしは、固まっていた。

――2人で話そうか

小さな声で、耳元で言ったその言葉。

あたしと中沢さんだけの、特別な約束に思えた。
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