FAKE‐LAKE
「青い鳥って、お伽話のあれですか? 幸せの青い鳥」
 ややあって、淡々としたアンジェの声が聞こえた。
「あいにく見た事ないです。僕は十分幸せですけど」
 会えたらもっと幸せになれるんでしょうか。
 アンジェは曖昧な笑顔を崩さずに尋ね返す。
「そうか、ここには来なかったか」
 鞄に診察器具をしまい終えた医師は意外そうに呟いた。パタンとふたをしめる音がやけに響く。
「君はいい子だからもう会えたかなと思ったんだけど」
 じゃあこれから会えるかもしれないね、と彼は続ける。
「ただ、もし青い鳥に会えたら気をつけなさい。青い鳥を狙う人間は沢山いるんだ。みんな幸せになりたいから当然といえば当然だけれど」
 医師が遠回しにレイについて話しているような気がして、アンジェの手の平が汗で湿った。
「もし捕まったら青い鳥は篭の中で飼われ、悲しい最期を迎えなければいけなくなる。……そうなれば君も」
 薄茶色の瞳が、微かに揺れたアンジェの表情をとらえた。医師は低い声で続ける。
「同じ道をたどる事になるかもしれない」
 大きく見開かれたアンジェの目が、医師の謎めいた表情を見つめる。
 何が言いたいのか。レイの存在に気付いているのか、いないのか。
 医師の曖昧な微笑みからはその本意は読み取れない。
「……幸せの青い鳥には会わない方がいいみたいですね」
 変わらずに淡々とした口調でアンジェは言った。
「僕、今以上の幸せはいらないですから」
 あくまでお伽話として話を流す。アンジェは笑顔でこの話に終止符を打った。
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