FAKE‐LAKE
「どうしたの?」
 動く影に問いかけると、震える声がアンジェに答えた。
「アンジェ……だ、よね?」
「そうだよ」
「ほ、本当に本当にアンジェだよ、ね?」
 しゃくり上げながらレイは何度も念を押して聞く。アンジェは手探りでテーブルの上にあったランプを付けた。
 明るくなった部屋の奥、ベッドの隅で震えているレイ。明かりで照らされた頬につ、と光が伝う。
「どうしたの?」
 そばによったアンジェがベッドの上に腰掛けた途端、レイは彼にしがみついてきた。体が、声がひどく震えている。
「怖い、夢、見た」
 途切れ途切れに言うレイの肩に毛布をかけてあげようとした時、アンジェの服を掴んでいる左腕に彫られた“F”の入れ墨が目に入った。
 胸の中に冷やりとしたものが流れ込む。
『どんな夢?』
 そう聞こうとアンジェは口を開きかけたが言葉にならなかった。
 怖いのと小さく呻き、レイはさらに強くアンジェの服を握りしめる。
「……ねぇ、レイ」
 アンジェは、震える小さな背中を優しくさすりながら、夢の事を尋ねる代わりに本で読んだ『お父さん』と同じ事を言ってみた。
「今日は、一緒に寝ようか」


 高く上がった明るい月が、ゆっくりと黒い雲の中に姿を隠していく。がた、と風が窓を揺らし、ぱらぱらと雨粒が木の葉を叩きはじめる。
 アンジェはベッドに横になり、屋根裏部屋の天窓から見える空を黙って見つめていた。左側にいるレイはアンジェの服をしっかり掴んだまま、時々鼻をすすっている。
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