FAKE‐LAKE
◇ ◇ ◇
「傷の薬と包帯、あと必要なのは……」
診察前、シアナは必要な薬品を揃えていた。
躾の残酷さはどんどんエスカレートし、レイはぎりぎりの状態で生きている。シアナがいなければ今頃は帰らぬ人になっているだろう。
「水が欲しいと言っていたか……」
少しでも吸収が良いようにと栄養剤を混ぜた水を作る。
後は、と考えたシアナの脳裏に痛みに呻くレイの姿が浮かんだ。
昔身についた癖だろうか、自然と痛み止めに手が伸びる。薬の瓶を手にしてシアナははっとした。
「何やってるんだ、俺は」
博士は痛み止めを許可しないだろう。痛みを与えるために虐待しているのだから。
最低限の体力さえ保たせれば良いのだ。相手は“兵器”であって同情は必要ない。
そう、これは仕事なのだ。シアナは瓶を棚に戻す。
『……に、いて』
鞄のふたを閉め、部屋を出ようとしたシアナは突然立ち止まった。
『そばに……いて』
レイの声と息子の声がかぶって耳に響く。
「仕事、なんだ」
シアナは自分に言い聞かせるように呟いた。
あの時、誰かを助けようとするなんて驕りに過ぎないと思い知ったはずだろう?
助けたいと思うなんて、所詮――
心の声とは裏腹に、シアナは部屋へ戻り痛み止めの瓶を掴んだ。飲ませやすいように液体にし、手の平に隠せるほどの小瓶に入れる。
それを鞄ではなく胸ポケットに入れ、シアナは部屋を出た。