FAKE‐LAKE
 病気に苦しむ人を助けたい。痛みに悩まされる人を一人でも楽にしてあげたい。その願いから医者の仕事を選んだ。
 しかし、妻が、そして息子が次々と原因不明の病気にかかった。シアナは仕事を辞めて二人を助けようと治療法を探すことに専念した。
 そのかいなく、妻はあっという間に息を引き取った。シアナは助けてやれなかった自分を責めた。
 せめて息子だけでも――その一心で、国内では許可されていない薬に、治療法に手を出した。仲介してくれたのがウィリス・フロスト博士だ。
 それでも、息子の体はどんどん病魔に食いつくされていき、もう手のほどこしようがなかった。
『そばにいて』
 どうしても諦められずに他の治療法を探すシアナに息子は言った。
『お薬も何もいらない。苦しいのも我慢するから、お願いそばにいて』
 その日、ずっと息子のそばにいた。腕に抱いて一晩中優しく話しかけた。
『父さん……ありがとう……ごめんね』
 次の日、息子は幸せそうな微笑みを浮かべたまま、静かに息を引き取った。
 どんなに必死で手をのばしても、指の間から零れていく命。
 仕方のないことだと、人はいつか死を迎えるのだと分かっている。
 それでも、苦し過ぎた。なぜ、と繰り返し誰にともなく問い続けた。悲しみと無力感で気が狂いそうだった。
 自分は愛しい者の命さえ救えない。そんな無力な奴がどうして他人を助けようと言うのだ。単なる驕りじゃないのか?
 シアナはその日、仕事も感情も生きる目的も何もかも捨てた。
 残ったのは、心に深く沈んだ悲しみと自分に対する行き場のない怒り、そして博士に払わなければいけない借金だった。
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