FAKE‐LAKE
 報告に行く時間がきても、シアナはまだレイのそばにいた。
 腕の中の小さな温もりが、眠らせていた記憶を、捨てたはずの感情を呼び覚ます。
 誰かを助けたいという真剣な願い。そのために選んだ医師という職への思い。無力さを思い知った家族の死。
 誰かを愛おしく思う温かな気持ち。
「……どうしたんだ、俺は」
 シアナは自嘲するように笑った。何も感じずに生きる方が楽なはずなのに。そう生きてきたはずなのに。
 何故、レイの姿を見て胸が痛むのだろう。何故痛みを止めてやりたいと、そばにいてやりたいと、一瞬でも笑顔にしてやりたいと思ってしまうのだろう。
「……ジェ」
  レイの口が微かに動いた。どうやら夢を見ているらしい。
 幸せそうなレイの表情にシアナは思わず微笑んだ。
「診察にいつまでかかってるんだ」
 乱暴に扉が開き、二、三人の兵が部屋に入って来た。来たか、とシアナは呟き、腕時計を見る。予想より二分ほど早かった。
「おい、お前何をしている」
 腕の中にレイを抱き、優しくさすっているシアナに兵は詰め寄った。
「見てわからないか? 治療だ」
 怯みもせず、シアナは淡々とした口調で答える。
「それが治療だって?」
「……これだから素人は」
 吐き捨てるように言い、シアナは続けた。
「お前達のせいで俺はいい迷惑だ。死なせないために努力してる“ただの捜査員”に感謝して欲しいものだな」
「何」
「体温が下がりすぎて死にかけているから手っ取り早く温めただけだ。もうすぐ薬も効くだろう」
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