FAKE‐LAKE
「なら早く出ていけ。さもないとお前も」
 兵は鞭を振り上げて威嚇する。足元を掠ったその脅しにびくともせず、シアナは彼らを見上げ静かに口角をあげた。
「……やってみろよ」
 笑っていない鋭い目。
 静かな声とは正反対な、敵意剥き出しの青い瞳に兵も一瞬怯んだ。
「なんだ、博士が怖いのか?」
 シアナはレイを守るように抱きしめる。
「俺は博士に言われた仕事をしているだけだ――そう、命令に忠実なだけ。仕事の邪魔はしないでもらいたい」
 ふっと厭味に笑い、わざと挑発するように続けた。
「まあ、どうしてもというならこいつの代わりに殴られてやってもいいけどな。お前達にそれが出来るなら」
「こいつ……!」
 苛立つ兵の一人を他の兵が止める。シアナは博士のお気に入りだ。簡単に手出しすると怒りを買うことになる。
「やめておけ。とりあえず博士に報告だ」
 兵が出ていき、静寂が訪れる。
 シアナは天井を仰ぎ、息をついた。自分で自分の行動がわからない。
 ただ、少しでも長くレイを眠らせてやりたかった。ほんの少しでも虐待から守ってやりたかった。
 ……少しでも長く、抱きしめていたかった。そう、離れられなかったのは自分だ。
 レイの寝顔を覗きこむ。幾分楽そうな呼吸。口許が微笑んでいるように見えた。
 出来る事なら――
 扉が開き、博士が兵と入って来た。明らかに怒っている。
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