FAKE‐LAKE
「これは博士、お疲れ様です」
 悪びれる事なく口を開くシアナに博士の怒りは増幅する。
「お前、何をしている?」
「兵に報告を聞かなかったのですか? ただの治療ですよ。“最低限の体力を保たせる”ための」
 シアナはレイを放そうとせず淡々と答えた。
「シアナ・アドニス」
 博士は低い声で問いただす。
「いつRに優しくしろと言った?」
「いつ優しくするなとおっしゃいましたか」
 相手の剣を奪いとって斬り返すようにシアナは博士に反論した。
「博士の命令は“最低限の体力を保たせる”事。ご命令通りRは生きられるぎりぎりの体力しかありませんよ」
 刃物のような青い瞳に見上げられ、博士は一瞬怯んだ。シアナは手の内にある間は有用な人材だが、一旦敵に回ると何をするかわからない。
 博士は唸るように問う。
「……裏切るのか」
「滅相もない」
 シアナは薄く笑った。その笑いは博士の神経を逆なでする。
「裏切るとは心外ですね。私は命令には忠実です。ただ、命令以外の事はしないというタチなだけですよ」
「三年前の事を忘れてはいないだろうな」
「ええ。ですが借金の分以上働かせて頂きました。法に訴えるおつもりならご自由に。博士も無傷では済まないと思いますが」
 ああ言えばこう言う。博士は痺れを切らしたらしい。シアナを無理矢理連れ出すよう兵に命令した。
「明日からRの体調管理はセトナに頼む。お前はもう必要ない。今すぐ出ていけ。基地への出入りも禁止する」
 レイをそっと寝かせたシアナを兵が取り押さえる。
「博士」
 立ち去りかけた博士が振り返って見たのは、シアナの瞳に浮かんでいる敵意。
 それとは裏腹に彼の口調は不気味なほど穏やかだった。
「お世話になりました」
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