FAKE‐LAKE
 基地から連れ出され、裏手に引きずって行かれた。
 やっぱりな。同じ手しか使わない奴らだ。それしか知らないんだろう。
 何人かの兵に殴られながらシアナは心の中で呟く。全く抵抗せず、すぐにのびたシアナを見て兵は嘲笑った。
「何だよ、口ほどにもないな」
「弱い奴ほど吠えるもんさ」
 腹を蹴り、倒れているシアナをそのままにして兵は去って行く。遠ざかる足音を、シアナは薄目を開けて見送った。
「……こんな下手な演技に騙されるとはな」
 もう少しのびてる振りをするかとシアナは目をつぶり仰向けになった。
「二流の敵は二流の演技で騙せるって本当だな」
 ぽつ、と雨粒が頬を叩く。
 雨か。シアナは重たい灰色の空を見つめた。
『お父さん、みたい』
 レイの嬉しそうな微笑みを思い出す。
『そうだったらよかったのに……』
 雨はどんどんひどくなり、シアナは地面に倒れたまま雨に打たれていた。
『そばに……いて』
『ありがとう』
『お父さんみたい』
 そうだったらよかったのに――
 冷たい雨に熱いものが混じる。感情を閉じ込めていた氷が溶けて流れて行く。
 あの日、息子を失った日に止まった時間が動き始めた。そうしてくれたのは、博士の残酷な虐待にも屈しない強い意志を持った少年。
 劣悪な環境にありながら、感謝の言葉を口にできる純粋な心を持った彼を――
「助けてやりたい」
 自然とそう口にしていた。
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