FAKE‐LAKE
「実験に耐えるだけの体力を回復させるまで二、三日かかります。一応枷で繋いでありますが逃げ出されては困るので、セキュリティのある研究室に監禁して頂ければ助かるのですが」
 見張りを増やす訳にはいきませんし、とセティが言うと博士は頷いて立ち上がった。
「分かった。すぐに移そう」
 そしてセティに手を差し出し握手を求める。
「君のおかげで私は長年の目的を達成出来そうだ」
 セティはその手を握りかえしながら心の中で問う。
 その、長年の目的とは何なのか。
 微笑んでいる博士の表情からはやはり何も読み取れない。
 セティは、部屋の主に忘れられたと思われる日焼けした写真に目をやった。写っているあの人達は一体誰なんだ。
「奴の能力が分かれば、あとは従わせるだけだ。その辺のコントロールはこちらで何とかする」
 はい、と頷きセティは手渡された研究室のカード型のキーを受け取った。
 明日の予定を確認して彼が出て行った後、博士は棚の写真に一瞬目をやった。
 すぐに視線をそらし、棚のファイルを片っ端から調べはじめる。
 二十冊目のファイルに挟んであった一枚の紙を取り出し、博士は研究室へと向かった。
「ロジェの処方箋を移しておいてよかった。もっと早くこれに気付くべきだったな」


‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥


 アンジェは放心したようにソファーに座っていた。
 いつの間にか陽は陰り、朝つけた暖炉の火もほとんど消えかけている。部屋の空気が冷えはじめている事にすらアンジェは気がついていないようだ。
 膝に置かれた一枚の白い紙には、レイからの伝言が書かれていた。
『家族になってくれてありがとう』
 まるで死が目前に迫っているような、感謝の言葉。そう、死を覚悟しているような。
 しばらくしてアンジェは、ゆっくりと左手に目をやった。
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