FAKE‐LAKE
「行こ。朝ご飯出来てるよ」
 ほら早く、と元気よく引っ張る手が優しくて。温かい日だまりのような笑顔が愛しくて。
 アツキは自分の中に小さな揺らぎを感じた。
 ――君のために、俺は変われるだろうか?
『……アツキの味方よ。何があっても』
 君のためになら、俺は過去を越えられるだろうか……?


‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥


「すっごーい! こんなに沢山!」
 杏の木に登って実を収穫していたレイが、嬉しそうにカゴを見せて笑った。
「そろそろにしたら?」
 さらに上の枝へと手を伸ばすレイに、二階の窓から見ていたアンジェは声をかけた。カゴはすでに溢れそうなくらい一杯だ。
「んー、もうちょっとー」
「いいけど、落ちないように気をつけなよ」
「大丈夫!」
 と言ったそばから足を滑らせ、ふあ、という意味不明な声と共にアンジェの視界からレイの姿が消えた。
「だから言ったのに……」
 アンジェは急いで階段を駆け下りる。草のクッションもあるし、おそらく大事には至らないだろうけれど。
 家の裏側にある杏の木の下で、レイが恥ずかしそうに笑っていた。頬を少し擦りむいた以外怪我はなさそうだ。
 カゴ一杯に収穫した杏が、周り一面に散らばっている。まるでオレンジ色の敷物を敷いたみたいに。
「こんなに拾ったのに、欲張るからだよ」
 両手を腰に当てたアンジェがたしなめると、レイは握った右手を差し出した。ぽとん、と手の平に落とされたのは、他のより一回り大きい杏。
「これ、すごく大きかったから。アンジェにあげようと思って」
 どうしても取りたかったんだ、とレイは満面の笑顔で言う。その嬉しそうな表情につられ、怒る気もなくなった。無事だったのだし、なによりレイの気持ちが嬉しかった。
「ありがとう」
 アンジェは大事そうに杏をポケットにしまい、散らばった杏を拾うのを手伝った。
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