時間屋

俺は、喘ぎながら彼女の名を呼ぶ。



「…志…乃」



…ばかやろ。


何で出てくんだよ。



中川は嬉しそうにほくそ笑んだ。


「これはこれは、志乃お嬢様。どこに隠れていたんです?」


「…中川さん!もうやめてって言ったでしょ!?」


中川の質問などお構いなしに、志乃は叫ぶ。


中川の口元が、ぴくりと動いた。


「…っ、志乃!逃げ…」


俺の声は、途端に呻き声に変わる。


思い切り中川に腹を蹴られ、俺は地面にうずくまった。


「空雅くんっ!」


志乃が近寄って来る足音が聞こえた。


その足音が、ピタリと止まる。



咳き込みながら顔を上げると、中川が志乃の目の前にナイフを突き出していた。


「…もうひとつ、交渉をしましょうか」


志乃の表情が険しくなる。


「…何ですか」


「なに、簡単な話ですよ。貴女が俺の妻になればいい」


その表情は、すぐに驚きへと変わる。


俺はその光景を黙って見ていた。



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