時間屋

声を出したいのに、出ない。


体を動かしたいのに、動かない。



…情けない。


「…あなたの妻になったら、うちの財閥の人には手を出さないでくれますか」


志乃の、真剣な瞳が俺の目に映った。



…やめろ。


そんな馬鹿な真似するな。



「…勿論ですよ」


中川が、肩を揺らして笑う。


対して志乃は、にこりともしなかった。


「本当ですね?…その言葉が嘘だったら、中川財閥の未来なんか視ませんよ」


「貴女が手に入ったら、北条財閥なんてどうでもいい。約束は守りますよ」


…やめろ…。


そんなやつの言うことなんか、聞くな…!


「………志乃ッ…!」


かろうじて絞り出した声に反応した志乃は、笑顔とは程遠い顔で笑った。



「…わかりました。中川さん、あなたの妻になります」



さっきまで晴れ渡っていた夜空から、ポツリ、またポツリと雨粒が落ちる。





そして静かに、地面を悲しみの色で濡らした。





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