音のない世界 ~もう戻らないこの瞬間~




あたしはこのまま突き通す。


「――― 関わらないで」


これだけは、いっくんに知られたくないことなの。


「わかったよ」


あたしのその言葉にいっくんは納得したのか、そう言ってあたしから視線を外した。

そして、あたしをまっすぐ見据える。

その視線の強さに、あたしはいっくんの今の感情を瞬時に察知した―――。


「もうまおなんて知らないからっ」


あたしの横を勢いよく通って自転車置き場に向かっていった。

ガチャガチャと自転車を動かす音が聞こえ、少しずついっくんとの距離が広がっていくのを感じた。


いっくんとケンカした―――。

と言うより、あたしの一方的なわがままのせいで、いっくんを怒らせただけだ。

最後にあたしに視線を向けたとき――― いっくんはあたしを呆れた表情で見ていたわけではなく、怒るように視線を向けていた。


こんな状況を作り出したのはあたしなのに――― もう、後悔している。

明日からいっくんと今まで通りに過ごすことが出来ないって考えると…… 胸が痛い。

こんな気持ちになるくらいなら最初っから話せばよかったけど……。

それだけは、どうしても出来ない。

絶対に今のあたしの状況を話すと、いっくんは優しくする。

優しくしてもらうことは嬉しいけど、その優しさに甘えきってしまう自分が容易に想像出来る。

だからこそ――― 話せない。


「ゴメンね、いっくん……」


いつか話せるときがあるなら…… 話したいな。

話せる時まで、あたし――― 頑張るから。

だから、今はそっとしておいて。




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