音のない世界 ~もう戻らないこの瞬間~




薬も飲み終わり次は"吸入器”


小さなキャップを外し、その部分を口に入れプッシュして、吸い込む。


口の中に、苦さが“ジワリ―――”っと広がる。


小さい頃はプッシュと同時に息を吸い込む事が出来ずによく咳をしてしまい上手に出来なかった。

さすがに高校生にまでなると咳もせずに1回で成功する。


「薬は飲んだの?」


「バッチリ!」


ママの問い掛けに120パーセントの笑顔で答える。


いくつになっても心配性なママを安心させるためにあたしはいつも笑顔で答える。


ママが心配性なのはあたしがしっかりしないから……。

そうわかっていながらも、全然“成長”しない自分の少々呆れてしまう。


「歯磨きいってくる」


あたしのお弁当を可愛く作ってくれているママにそう言ってあたしは洗面所に移動する。



「あ、パパと理央ちゃん行ってらっしゃい」


「行ってくるね」


「行ってきます」



パパと理央ちゃんは同じ時間に家を出る。


パパは仕事……、理央ちゃんは部活……。



あたしは毎日そんな2人を見送ってから歯磨きをする。


歯ブラシに歯磨き粉を出し、口の中に含む。 口内にスーっとミントの味が広がった。





< 3 / 557 >

この作品をシェア

pagetop