音のない世界 ~もう戻らないこの瞬間~
ゲーム機から流れる音、叩く音、お店の中に流れる大音量の音楽。


そのせいでいっくんの声が聞き取れない。


すぐ横に立っているのに……


全然わからない。



「いっくん……」


――― 気付いてよ。


あたしの声が小さいの?
だから聞こえないの?


「もう出ようよ」


UFOキャッチャーの前で止まったけど、また歩き出した。


いっくん…… いっくん……


お願い、気付いて。


もうこんな場所に居たくない。


早く戻りたいよ。



――― いっくん。


色々な音が混じりあう。


「     」


後ろを歩くあたしに振り返って何か言ったみたいだけど分からない。


いっくんがどんどん遠くなる。


背中はこんなに近いのに、どうして距離がどんどん出来ていくの?


こんなの、もうイヤだ。


あたしに気付いて。







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