音のない世界 ~もう戻らないこの瞬間~
うぅ……


なんだか、右耳が痛い。


ズキンズキンする。



テレビは音量を上げて見ているけど、こんなに耳が痛くなることが無かった。


ズキンズキン…… ズキンズキン……



「もう、やだぁー」


前を歩く広い背中の服の裾をとっさに握りしめた。



もう、こんな所出たいよ。


早く気付いて。


痛い、耳が痛い……


服の袖を強く握りしめ、自分の唇もキュッと強く噛み締める。


――― いっくん。


――― いっくん。



その時、握りしめていたいた手がふわりと何かに包まれた。


顔を上に上げると、そこには心配そうに見下ろすいっくんと目が合った。


「     」


ダメだ、やっぱり分からない。
唇は動いているんだけど、何て言っているのかさっぱり。


何を言っているのか分からないから首を左右に振る。







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