音のない世界 ~もう戻らないこの瞬間~
「まおちゃん?」
「もういいの?」
「終わったから帰ろ?」
「わかった」
あの試合が最後だったんだ。
「あたし、バスの時間見てくる!」
そんなにバスケの試合の見学が嬉しかったのか、軽やかにバス停まで走っていく姿をあたしは見つめる。 理央ちゃんは、嬉しそうな顔でどんどん小さくなっていく。
学校前にあるバス停は体育館から50メートルくらい離れているだけで、走れない距離じゃない。
「あと20分しなきゃバス無いよー」
20分、か。 今日は土曜日だからいつもよりバスの本数が少ない。
「まおちゃーん」
「待っててー。 今向かうから」
一足早くバス停に着いた理央ちゃんは手を振っている。
本当は走って追いかけてあげたいけど……。 ゴメン、体がダルすぎて走れそうにない。
しばらくそこで待ってて。
ダルい体を引きずりながら小さく見えるバス停を目指した。