音のない世界 ~もう戻らないこの瞬間~





「なに?」


「大変かも知れないけど…… 大丈夫だから、な?」


そう言って、パパの大きな手があたしの頭をなでる。


「…… 大丈夫だよ。 あたし、これくらいで弱ったりなんてしないから」


大きくて安心できるパパの手に、胸が熱くなる。

心配性過ぎるママ。

妹だけどしっかりしている理央ちゃん。


あたしにはこんなにも心強い“味方”がいるんだ。

大丈夫―――。


「お風呂行ってくるー!」


パパやママがいるってわかっている。


でも…… 本当は、正直複雑なんだ。


身の回りに“難聴者”がいないって事もそうだけど、いまだに自分が“難聴”と受け入れらない。


全く聞こえてないわけではない右耳。


一人になると、急に不安になる……。


もしかしたら明日の朝には音が無くなるんじゃないか――― そう考えてしまう。


――― 怖いよ。


誰か、助けて―――。




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