音のない世界 ~もう戻らないこの瞬間~
菜々からのお説教は軽く終わった。
「前田くんと一緒だったの?」
「中学の前で会ったから一緒に来ただけ」
「まお、瀬川さんに迷惑かけんなよ。 俺は前の車両行くから」
「…… ん、わかった。 じゃ後でね」
背を向けて歩いていく、いっくんに心の中で手を振った。
あたしは前の車両より、後ろの車両が好き。 だって空いているんだもん。
「いっくんってどうして前の車両に行くんだろ?」
いっくんの背中を見つめながら、小さな疑問を口にする。
「人、それぞれじゃない?」
「そっか」
「ほら、電車きたよ」
あっ、電車だ。 アナウンスに従い電車に乗る。
朝の電車は混む。
新聞を読んでいるおじさん。
本を読んでいる人。
「まおはいつからテスト?」
迷惑にならないように小声で話す。
「うーんと…… 再来週かな?」
「菜々は来週だよね」
「そ、もうイヤだよ」
あたしも再来週テストか…… 勉強しなきゃな。
生物、やらないとなー。 あっ、世界史もやらなくちゃ。