達人
「名は…何と言いましたかね…?」

城山老人が言う。

「丹下龍二(たんげりゅうじ)です」

正座したまま、俺は真っ直ぐに見据えて答えた。

…城山老人の三分の一程度しか生きていない俺だが、こう見えても腕には覚えがある。

空手、柔道、ボクシング、剣道、弓道。

武術武道と名のつくものは大抵試してみたし、それなりに結果も出してきた。

プロからのスカウトも片手じゃ足りないほどだ。

天狗になるのも致し方ないと言えるだろう。

そんな慢心した俺の耳に、ある噂が届いた。

『とある小さな道場に、達人とまで呼ばれてあらゆる格闘家、武道家が畏怖する老人がいる』

…興味をひかれた。

達人。

ある種の憧憬を抱く言葉だった。

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