達人
ある達人は、触れもせずに己の倍以上もある大男の体を宙に舞わせるという。

ある達人は、額に貼りつけた飯粒のみを刀で斬らせる事が可能だという。

ある達人は、片手で四人五人をねじ伏せる事が可能だという。

しかし。

それらの達人と呼ばれる人物は、決して公の場には姿を現さない。

ある者は記録の中だけで。

ある者は口伝だけで。

ある者は己の弟子相手だけで。

その奥義、極意を見せるという。

はっきり言ってしまおう。

俺は達人などという存在を信用してはいなかった。

所詮はインチキ、トリック、まやかし。

実際には達人と呼ばれる存在は強くなく、力もなく。

実際に立ち会ってしまえば、俺の方が何倍も強い。

そう考えていた。

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