恋 理~renri~


「おはようございます。」


歩きながら挨拶を交わすと、真っ先に机上のPC電源をオンする。



メールチェックをすれば、十数件もの未読メールが気合を入れさせるから。



ジャケットを脱いでシャツの袖を捲り、仕事に掛かり始めようとすると。



「沢井係長!」


絶妙なタイミングで呼ばれてしまい、気合いは空振り三振といったトコ。



「何かしら?」


PCから視線を上げれば、入社2年目となる宇津木(ウツギ)くんが構えていた。



「はい…、あの、実は…、」


手をモジモジさせて言いあぐねる姿に、今日もまたウンザリさせられる。



このウジウジさを鬱陶しく感じるのは、私だけ…?



「あのねぇ…、話しかける前に用件くらい纏めておきなさい!

いつまでも新人気取りでいられると思ってるの!?」


我慢もピークに達すれば、次々に沸いて出てくる辛辣な言葉の数々。



「す、すみません・・・」


別に謝罪を求めている訳でもないのに、か細い声に溜め息も出てしまう…。



「…それで用件は?」


「実は、例の川島物産ですが…。

足を運んだ結果ですね、何とか見積もり提示まで持ち込めまして…」


おずおずと話し始めた彼の言葉で、私は目を開いて驚かされる。



「最終段階で相見積の他社と、金額が合致したそうで…」


「やった…、ホントに凄いじゃないの!

でも良かったわ、次回は私も同行してゴリ押しするから。

何が何でも、川島物産との取引を拡大させなきゃね?」


「良かったです。

ご迷惑おかけしますが、宜しくお願いします!」


力強い言葉に安心したのか、宇津木君にもすっかり笑顔が戻った。




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