other contract
「き、金司、それ‥‥」
「え?これか?」
そこには、私の胸にある紋章と全く同じもの。
「おい、お前説明してねぇのかよ」
「‥金ちゃん」
口ごもる金司は、悩ましげに眉をひそめた。
「えぇ~!?もしかしてこの人も吸血鬼~‥ッ!?」
「ちょ‥、菫、声大きいよ」
菫は目をキラキラ輝かせながら、金司の顔を覗き込んだ。
桃さんは次は菫を止めるのに必死。
「って事は、華ちゃんが“餌”?」
菫は首を傾げながら言った。
「‥“エ”?って何?」
「吸血鬼の命を繋ぐ、血を与える人の事。というか、華ちゃん、吸血鬼の事知ってるのかな?」
桃さんは軽く説明をすると、金司の方を向いた。
「ああ、華は知っとるで。でも、“契約”の事は何も教えとらん」
「金ちゃん、一番大切な事は一番に教えなきゃダメでしょう」
「そん時はまだ、“契約”しとらんかったんや」
“契約”‥?
「華ちゃんにも、同じ紋章が胸のところにあるでしょう?」
「ええ」
「それが、“契約”した証なんだ」
さっきから、“契約”の文字ばかりが飛び交う。
“契約”って何?と訊く前に、桃さんが説明を始めた。
「“契約”というのはね、吸血鬼と“特別”な存在の人にしか出来ない事なんだ」
「‥“特別”な存在?」
「“特別”な存在というのは、吸血鬼にとって特別な血を持った人らしいよ」
「普通の人のモノよりも、美味しいんだって!!」
元気良く答える菫の首筋に、二つの後がチラついた。
そうか、今まで虫か何かに刺されたんだって思っていたソレは、
本当は『食事』の後だったんだ。
「“契約”した吸血鬼はその相手の人の血しか吸えないし、相手はその吸血鬼にしか血を与える事が出来ない」
もし、その吸血鬼がその相手以外の血を口にすれば‥‥
「死ぬ」
「‥‥え?」
私はとっさに金司を振り向いた。
金司は私を見て、コクリと頷いた。
「俺がちゃんと気ぃ付けとくから、大丈夫や」
笑ってそう言う彼を、私は少し複雑な気持ちで見た。
やっぱり、どんな世界にいようと
『死』と隣り合わせ。
私はいつの間にか、金司の命に関わる事をしていたのね。
でも、それを‥‥
いつ、どこで?