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すると、聞こえてくる元気な声。

「あ、アオちゃんっ!!」

こっちに駆け寄ってくるその子は、葵の恋人や。
いっつもいっつも『可愛いでしょ?』て自慢してきよる。

「ちょっと、菫。校内では控えときなさいよ」
「は~い」

菫にそう呼びかけたのは‥‥

「「あ」」

昨日、俺に血を与えてくれた子。

「き、昨日はすまんかった」
「あ、ううん。大丈夫だから」

一見、気が強そうに見えるこの子は、少し不器用にそう答えた。
ちらりと見えた左の人差し指には、ばんそこうが貼ってある。

「‥‥知り合い?」
「ああ、さっき話した血をくれた子や」

耳打ちで答えると、葵はニヤリと口の端を曲げた。
な、何や?

「その子、結構いい子だと思うよ。菫がそう言ってたし」
「は?」
「さて、菫。帰ろうか」

葵は菫の返事も聞かずに、菫の手を引っ張ってさっさと帰っていく。
菫は状況把握が勿論出来ていなかったが、とりあえず隣におるその子に「明日ね~」と言っていた。

「‥?、どないしたんや、葵は」
「‥‥はぁ」

葵の突然の行動に疑問を浮かべながらも、俺は隣におるその子を見た。
その子も俺を見ていた様で、視線が絡む。

「な、名前、何ていうんや?」

俺は適当にその場埋めをしようと、名前を聞いた。

「華、神白華。‥貴方は?」
「黄河金司や」
「‥‥私、貴方に訊きたい事があるんだけれど」

華は俺を視線で捕らえると、腕をぐっと掴んできた。
まるで、俺を逃がさない様にする為に。

「『これで、またしばらく生きられるわ』ってどういう事なの?」

腕に込められた力が一層強くなる。
俺は適当に誤魔化そうと明後日の方向をみたが、華はしつこく訊いてきた。
‥‥効き目無しやなぁ。
葵みたいに口が上手くないけん、上手い様に騙したり出来ん。

ホンマの事を話すべきか‥?

真っ直ぐに俺を見上げているその瞳。
更に腕を握る手に、力が込められる。

「‥‥分かった、お前さんには負けたわ」

苦笑して答えると、華は俺の腕を放した。

「ホンマの事を全部話たる。でも‥、信じれんと思うがな」
「信じれない‥?」
「ああ、‥あのな‥‥」
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