LAST contract【吸血鬼物語最終章】

その時、不意に温かいものが僕の手に触れた。
スミレの、温かい手。

「今日も、冷たい」

そう言いながら、僕の手をその小さな手で包もうとした。
だから、僕はその手を包み返した。

「お前は、いつも温かいね」
「うん、子供体温なんだ」

そのまま、ずっと。
スミレの家の前まで手をつないで歩いた。



今はこんな関係ではない筈なのに

僕の事、忘れているはずなのに



それでも、それをこの時は忘れた。
他愛のない話をして、笑い合って。

お前の記憶が無くなる前と何の変りもない様な
そんな時間だった。

「わざわざ家まで送ってくれて有り難う」
「うん」

もし、お前の身に何かあったら大変だし。
ここまで送るのは、一応さっきの詫びでもあるし。
僕はスミレの手を離して、振り返った。

「あ、あのっ、浦さん!!」

それでも名前を呼ばれた時、やっぱり違うと思った。
スミレだけど、スミレじゃない。
“アオちゃん”と呼ばないから。

「何?」
「また、明日ね」

それでも、

その手を振る仕草とか

恥ずかしそうに軽く俯いてしゃべるとこが



ああ、スミレだ。



って思えて、僕に何とも言えない感情を生じさせるんだ。



悲しみでもなければ
寂しさでもない。

苦しみでなければ
切なさでもない。



そんな胸の痛みを抱えて、僕も笑顔を向けて言った。

「うん。また、明日」

まだ手に残っている、スミレの手の温もりと
まだ耳に残っている、スミレの声を思い出しながら

僕は暗い道を歩いた。



突然、道が揺らぐ。



それはゆらゆらと、水の中にいる様な感覚。
僕はその場に足を付いた。

今までこんな感覚に襲われた事なんかなくて、突然の事に頭が困惑した。


‥‥もしかして、
体内の血が、もう少ないのか‥?



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