LAST contract【吸血鬼物語最終章】
スミレの頬に手を添えて、もう片方の手では髪を撫でた。
規則正しく呼吸を繰り返し、薄く開いたその口に
そっと優しい口付けを落とす。
ここで起きたりしないでよ?
僕の計画が台無しになってしまうから。
「‥さっきは、ありがとう」
お前が僕の事を思い出して、血をくれなかったら、本当に危ないところだったって。
死ぬところだったって。
それが他人事のように思えるのは
今、生きているからなのかもしれない。
スミレから手を離して、寝室の扉の前で足を止めた。
スミレを振り返ると、愛しさと罪悪感で胸が痛くなった。
「ゴメンね、約束は守れそうにない」
僕がスミレに残したのは、
一つのキスと
一つの嘘となった約束への謝罪と‥
「さよなら」
一つの別れの言葉。
「葵さん、どこかいくの?」
「うん、‥ちょっと出てくる」
寝ている先輩と夕飯を作っている桃を横目に、僕は玄関を出た。
ふぅ、と息を吐けば白く空気が濁る。
もう直ぐ沈んでしまう夕陽を目に、
僕は足を進め始めた。