LAST contract【吸血鬼物語最終章】

そう、俺が“我を失った”時の事。

「俺はもう、あん時みたいになったりせんで」
「‥‥」
「華が血をくれてんやから、なったりせん」

俺は華の前に回り込み、ぽんぽんっと頭に手を乗せた。
ははっ、やっぱりコイツ泣いとった。

「せやから、泣かんでもええ」
「‥‥泣いてない」
「そうか?俺には見えるんやけどなぁ、お前の涙が」

ポケットをごそごそと探って、懐紙とハンカチを取り出した。
どっちがええ?と訊く前に、華はハンカチを俺から取り上げた。
俺的には、懐紙の方が嬉しかったんやけどなぁ。

「‥ちょっとね、不安になっただけなの」
「不安?」
「酷い傷負っていたでしょう?」
「ああ、紅の事か」
「それ見て、なんか‥あの時の事思い出したの」
「‥‥」
「本当に、絶対に、あんな風にならない?」

地を見ていたその瞳は、いつの間にか俺を見上げていた。
そして、懸命に答えを求めていた。

「‥ああ、絶対にならん。約束する」

今にも泣きそうな顔をした華の前に、俺は小指を出した。
それは、約束をする為の儀式。

「約束、や」
「‥約束よ?」

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