LAST contract【吸血鬼物語最終章】



しばらくして、インターホンが鳴った。

「お、帰ってきたか?」
「出てくるね」

玄関の扉を開けると、そこにいたのは‥

「す、菫‥ッ!?」

一人だけだった。
葵さんの姿が、見当たらない。
菫の様子は変だった。
目からは大粒の涙がボロボロと落ちていて、首筋から血が流れていて‥。
掛ける言葉が、見つからなかった。

「桃、どうしたんだ‥」

様子がおかしいと思っただろう紅も、菫を見て固まった。

「‥っも、も‥」
「とりあえず、家に入って。菫」

家に入れて、温かいココアを出してあげた。
菫はずっと、ずっと、泣きっぱなし。

「‥葵は、どうしたんだよ」

携帯電話をパタンと閉めて、紅は菫に訊いた。
紅はさっきから何度も葵さんに連絡を取ろうとしているけど、取れていない。

「菫、少しずつでいいから‥話して?」
「‥う、ん」

菫は涙を手の甲で拭きとると、虚ろな目を上げた。

「アオちゃん‥ね、もう、ボクの事、必要無くなったみたい」
「‥どういう事?」
「さよならって言われたんだ」
「何で‥」
「分かんない。でも、ボク、アオちゃんの邪魔になりたくないから‥」

だから、別れて来た。

「それと葵と連絡が取れないのと、関係あんのかよ」
「‥分かんない」

菫は、葵さんの事が好き。
だから、こんなに泣いているんだよね。
葵さんは‥、菫の事が嫌いになったの?
でも、“契約”しているんだから‥‥

「その首筋、葵さんが?」
「‥うん」

どういう事だろう。
血を吸って、それで菫とさよなら‥?

「‥死ぬ、気‥」
「はぁ!?」
「葵さん、もしかして死ぬ気なんじゃ‥」

菫は、ハッと顔を上げた。

「な、なんで‥?」
「だって、“契約”した吸血鬼は、その相手の血しか口にする事が出来ない」
「‥だな。アイツはそれを十分分かってる。特に、今回の一軒で痛感した筈だぜ」
「うん。それを分かっている上で離れるという事は‥‥」



きっと‥‥
本当に、菫の前から消える気なんだ。



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