LAST contract【吸血鬼物語最終章】

LAST contract -mark 17- 葵目線




風に乗った潮の香りが、僕の鼻をかすめた。
久しぶりに聞いた波の音は、とても心地良いものだった。

あれから一夜明けた今日。

僕は田舎の港町に、里帰りしていた。
何の前触れも無く、急に帰ってきた僕に、両親は当然驚いていた。
でも、笑顔で僕を迎えてくれた。
此処は向こうと違って、ゆっくりと時が流れる。
防波堤に上って、海面の果てを見つめた。

「‥はぁ、しつこいなぁ‥」

携帯の着信が鳴って、画面を開けば先輩からの着信。
昨日の夜から何回もかけてきてる。
今ので‥、30回目くらいじゃない?
桃からも何度かかかってきてる。
スミレからは‥‥

一度も、かかってきてないか‥。

着信が鳴っても、僕は相手をしなかった。
どうせ、内容は分かっている。

今どこにいるんだ。だの、
何でスミレと別れてんだ。だの。

先輩の五月蝿い言葉が飛んでくるに違いない。
でも、僕だって十分理解しているんだ。
スミレから離れるという事は、



“死”を意味している事だって。



でも、僕がスミレの傍にいたら、またスミレを傷付けてしまうかもしれない。
僕が血をずっと口にしなかったら、死ぬのは僕だけ。
スミレには何の害も無い。

なら‥、僕がスミレの前から消えればいい。
消えれば、いいんだ‥。

それがスミレを守れる、最適の手段。

「スミレも、了承してくれたみたいだし‥」


< 81 / 105 >

この作品をシェア

pagetop