LAST contract【吸血鬼物語最終章】

あんなにすんなりいくとは思わなかった。
泣いて、縋り付かれるかと思っていた。
でも実際はそうじゃなくて、簡単にいいよって言って。
直ぐに、その場を去って行って‥。

少し、複雑だった。

自分から言い出した事だけど、何ていうかな‥。
もっと、縋り付いて欲しかった。
嫌だって言って欲しかった。

「‥‥はぁ‥」

スミレにとって、僕はそんな存在だったのだろうか。
簡単に、別れを承諾するほどの‥。

「‥スミ、レ」

呼んだって、返事が無いのは分かっている。
でも、お前の名前を口にしたら
何だかお前が近くにいる様で、安心出来るんだ。

「スミレ‥」

僕が生きれる時間は、後1ヵ月くらいだろう。
だから、その間に親孝行なんか出来ればいいなって思って、ここに帰ってきた。
けれどなかなか何をすればいいか思いつかなくて‥

海を、眺めてみたり。

そうしたら何だか見入ってしまった。
寄せては、引いていく波。
その度に一定の音が、僕の耳に残る。

さて、残り一ヵ月くらいの人生を楽しもう。

大きく伸びをして、僕は砂浜に足を踏み出した。
砂浜に打ち上げられた流木や貝。
角が丸くなったガラスを持ち上げて、太陽に向けた。
キラキラと輝くそれは、ダイヤモンドに負けないくらいに綺麗だった。

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