群青の月 〜『Azurite』take00〜
『屋上』と言う言葉に
彼は惹かれた様で
近所を見回しながら、後について来た
来た頃より
だいぶ灰色の濃くなった雑居ビル群
最近はその路地に
意味不明な標識が増えてしまい
車でここまで入ると
出るまでに、倍時間がかかる
入口に
丸いライトが灯るマンション
そのガラス扉を開け
道路から頭上を見上げる灰谷を誘った
―― 静かな廊下に
二人の靴音だけが響いている
灰谷が呟く
「 …ここ 人住んでないの 」
玄関扉の横の
鉄柵つきの窓には
どこの部屋にも明かりはついていない
廊下の天井に、少し煤けた蛍光灯が
間隔を置いて光るだけだ
「 少し前迄は、人が住んでたけど
もう完全に、事務所や倉庫しか
入ってないから
夜9時過ぎると
俺しか居ないんじゃないかな 」
「 …へえ 」
最上階
一番奥の部屋の扉を開ける
段ボールの山の横を通り
殆ど使われた事の無いキッチンの横
少し軋む、金属音を立てて
ドアが開く
階段を昇り、またドア
水分を吸い込んだ風が
足元で、舞い上がった